【おすすめSF小説】長谷敏司の『BEATLESS』ボーイ・ミーツ・ガールの進化系!【100年後の未来⁉】
君はSFを読むか?
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』『夏への扉』『われはロボット』『ソラリス』……
海外を中心にSF小説の名作を挙げればきりがない。
国内だって負けてはない。
小松左京なんて挙げればSF玄人だろうし、
伊藤計劃という天才だっていた。
最近ではNHKでアニメも放送している『銀河英雄伝説』はまさしく王道のSFではないだろうか?
サイエンス・フィクション。
有名作でも数を挙げれば枚挙にいとまがないが、それぞれに強い個性を要している。
だからこそ、SFってなんだろうか、と疑問に思ってしまう。
宇宙が舞台ならSFなのか?
確かに『銀河英雄伝説』は宇宙で戦争を行うのが主軸の作品である。
しかし伊藤計劃の例えば処女作の『虐殺器官』は宇宙を舞台にしているか?
あれは地球を舞台にしているし、雰囲気は泥臭い空気を一貫して漂わせている。
同じ戦争をテーマに据えながら、全然異質の戦争を描いている。
このようにSF小説は多種多様である。
様々な作品があるので一種、敬遠してしまっている方もいるのではないだろうか?
また、なんだか難しそうなジャンルだと一蹴してしまっている方も。
だからこそ今回はこんな小説を紹介したい。
長谷敏司の『BEATLESS』
長谷敏司といえば、ライトノベル出身のSF小説家。
代表作「円環少女シリーズ」では緻密な設定やストーリ展開に当時の読者は衝撃を受けた。
『My Harmonity』ではSF大賞を受賞。
名実ともに国内の実力あるSF作家の仲間入りを果たした。
そんな長谷敏司の長編小説の一つが『BEATLESS』である。
アニメ化もされた今作は登場人物などの設定はジョブナイル的な若者向け作品のようにも受け取られるが、物語が進むにつれ、この作品の世界観が徐々に垣間見えてくる。
そして目の当たりしていく世界の緻密さ、壮大さ。
この作品世界だからこそ生じる思想の対立などを高校生の主人公周りの登場人物たちに役回りを与えることで、大きな衝突を実に身近にさせている。
その手腕、物語への消化力は驚きの連続である。
SFって面白い! SFって凄い!
もしかしたら私たちが生きている時代の地続きの未来を描いているのかもしれないし、全く違う未来が待っているのかもしれない。
しかしだからこそ私たちは読んでいてワクワクするのだ!
長谷敏司『BEATLESS』
100年後の未来。社会のほとんどをhIE(ヒューマノイド・インタフェース・エレメンツ)と呼ばれる人型アンドロイドに任せた世界では、人類の知能を超えた超高度AIが登場し、人類の技術を遙かに凌駕した産物“人類未到産物(レッドボックス)”が生まれ始めていた。17歳の遠藤アラトは4月のある日、舞い散る花弁に襲われる。うごめく花弁からアラトを救ったのはレイシアという美しい少女の“かたち”をしたhIEだった。
世に放たれたレイシア級hIEと呼ばれる、レイシアの姉妹たち。オーナーを必要としないスノウドロップ、人間に寄り添う紅霞、人間を利用するメトーデ、「わたしに、こころはありません」と告げるレイシア。人間がもてあますほどの進化を遂げた、人間そっくりの“モノ”を目の前に、アラトは戸惑い、翻弄され、選択を迫られる。アラトが見つけた「ヒト」と「モノ」とのボーイ・ミーツ・ガールが導き出す人類の未来への選択とは―。
22世紀初頭の、「hIE」という人型ロボットに社会の大半を任せた世界。
コンビニの店員もhIEだし、近所のおばちゃんもhIEだったりする。
hIEは道具である。これが普通の認識だ。
人の姿を有していても、それを人のように扱うのは倫理的に間違っているのだ。
もしhIEを人のように扱った場合、人の存在意義が問われてしまう。
hIEにも人権を! なんて言われてくるかもしれない。
人間はそれを恐れているし、そこまで考えなくても結局hIEはロボットで、つまり道具なのだ。
しかし、そうは捉えないお人好しがいる。
それが主人公の遠藤アラト。
アラトは買い物の帰り、とある美少女のhIE、レイシアに出会う。
一見してただのhIEのようだが、その実、彼女は超高度AIが作成した人類の技術をはるかに超えた《人類未到産物》(レッドボックス)だったのだ。
《人類未到産物》(レッドボックス)の名称の由来は観測者から遠ざかる光が赤方偏移によって赤から黒に変わるように、人類が必死に追いすがらなければ、それはいつしか「ブラックボックス」になってしまう、ということ。
つまりレッドボックスとは何も理解できなくなったブラックボックスの直前の立っている存在なのである。
そして先行して名前だけが出たがこの世界には超高度AIという存在が世界各国に39台が稼働している。
超高度AIとはコンピュータの計算能力の進化の結果、人類知能を凌駕したAIのことであり、かみ砕いていえば、なんかすっげぇコンピューターのことである。
その一つの「ヒギンズ」という超高度AIによって五体の人類未到産物が生まれた。
そこにレイシアも含まれる。
五体のレッドボックスはそれぞれの道具としての意志を携えて人類に干渉し始める。
ある一体はhIEの排斥を求める「抗体ネットワーク」に力を貸し、
ある一体は自由気ままに惨劇を繰り返す。
それぞれのレッドボックス(通称:レイシア級hIE)には人間のオーナがいる。
オーナーとの繋がりによってそれぞれに人類とのコンタクトを有しているのだ。
様々な政治的思想や民衆の思想、あるいは個人の思想が絡まり合い、人間のカタチをしたhIEの存在意義について考えは錯綜していく。
そして争いが生まれるのだ。
果たしてhIEは「モノ」なのか、それとも……
読んだ感想
読んでほしい。
ただそれだけだ。
ボーイ・ミーツ・ガールという分かりやすい物語のフォーマットによって基本は読みやすい小説になっているはずだ。
しかし段々と読み進めていくと、世界がどんどん広がっていくのだ。
そして様々な人間、団体、国家が登場していき、あらゆる思想が複合的に交錯していく。
何が正解か? 何が美しく、何が愚かしいのか?
遠藤アラトという主人公に辟易するかもしれない。
しかし、ちっぽけな彼だからこそ辿り着いた到達点は、果たしてどれほど愚かで美しいのか?
この作品に通底しているのが「カタチ」の影響力である。
この作品では度々「アナログハック」という言葉が出てくる。
「アナログハック」とは人間が同じ人間のカタチをしているhIEによる視覚的反応を使った、そんな本能を利用したハッキング手段。
例えば美人なhIEに服を着させて街を歩かせる。それによって購入意欲を刺激させる。
これはつまり人間によるモデル活動をhIEに代替させているということである。
しかし人間よりもhIEの方が一般的に美人な顔やスタイルを人工的に生み出せる点において利便性が高い。
これらによってさまざまな人間の職業がhIEに奪われていたりする。
政治家のhIEが生まれる時代にもなったのだ。
しかしここで生まれる弊害がやはり「アナログハック」なのである。
これによって人はhIEに支配されるのではないか?
その反感から生まれたのがhIE排斥を求める「抗体ネットワーク」
しかしそんな「抗体ネットワーク」の裏で操っている上層部は……
と、この「アナログハック」によってさまざまな問題や思想が対立し、しかし対立しているようでその裏では……、と一つの思想でも一筋縄ではいかない思想構造になっている。
小説内で一番ハッとさせられた言葉がある。
「たとえば、子どもが、キティちゃんのカップが欲しくてたまらないと思いなさい。これを欲しいユーザーにとって、カップはただのカップじゃない。ハローキティという〝かたち〟がプリントされていることで、カップは特別な、〝意味〟を持ったモノになる。ただのカップが愛されるってステキよね」
遠藤アラトのクラスメイトにしてバロウズ財団の理事長、それ以外にも傘下の会社のCEOだったりと設定モリモリの才女、エリカ・バロウズという少女による言葉なのだが、これが私の中でドキリとさせられたのだ。
確かにそうだな、と。
こういった視覚的影響力に私たちは価値観を変化させている。
これを実感したときは驚きとともに恐怖を感じた。
それ以外にもそういった視覚的な影響力に支配されている人間模様を物語を交えて描写している。
今まさに人はあらゆる情報に踊らされていないだろうか?
あらゆるものを直感的に信じて、価値観を一変させていないだろうか?
自分の中で何が本当で、何が影響された心なのか?
未来を描いているようで、人の根本を描いている作品。
SFの導入に、しかしてヒトの価値観を疑うきっかけになるような作品として是非、読んでみてほしい一冊である。
アニメ化もされたのでそちらもよければ。
最後に
この作品を読んだら、次にもっと難しい作品を読みたくなるのではないだろうか?
SF小説はエンタメ要素のある作品も多いが、やはり難しい作品も多い。
しかし難しいからこそ面白かったりするのだ。
だからこそ、まず初めに『BEATLESS』を読んで、難しいという事が楽しいと思ってほしい。
難しいことは辛い、考えるのは疲れる。
だからって簡単なことばかりでは飽きてしまう!
難しいこと、考えることが楽しいと思えれば世界が開けて見えてくる、かもしれない。
そんな契機になる作品になればと思い、『BEATLESS』を紹介した。
難しいって楽しい!
ではこの辺で。