かぴばら先生は語る

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【おすすめSF小説】野﨑まど『know』情報という脅威! 京都が舞台のSFストーリー【ハヤカワ文庫】

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「知る」という行為の恐ろしさ。

この世界は誰がどれほどの情報を有しているかで力の優劣が決定している。

それは学力はもちろんのこと、過去、現在のデータ、そこから予測できる未来のデータ。

経済状況、政治、世界情勢、自然災害。

それらは今までのデータによって算出され、予測される。

情報は力である。

近代戦争や戦国の戦でも情報戦をいかに対策するかで勝敗は決すると言っても過言ではない。

そんな情報が国民の階級ごとに制限され、それによって差別すら生まれてしまった世界が今回紹介する『know』の世界観である。

野﨑まど『know』

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:野崎 まど
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 文庫
 

超情報化対策として、人造の脳葉“電子葉”の移植が義務化された2081年の日本・京都。情報庁で働く官僚の御野・連レルは、情報素子のコードのなかに恩師であり現在は行方不明の研究者、道終・常イチが残した暗号を発見する。その“啓示”に誘われた先で待っていたのは、ひとりの少女だった。道終の真意もわからぬまま、御野は「すべてを知る」ため彼女と行動をともにする。それは、世界が変わる4日間の始まりだった―

 主人公は情報庁の官僚で、審議官の一人、御野・連レル(おのつれる)

情報階級はクラス5であり、実質トップ相当の情報開示特権がある。

この作品世界ではクラスというモノがあり、職業などによって相応の情報階級が割り振られる。

クラスが高ければ高いほど情報を得られ、自身の情報を隠すことが出来る。

対してクラスが低ければ低いほど情報は得られず、自身の情報も開示されてしまう。

そういった階級差異によって下世話な話ではあるが、子どもなどでは異性の同級生に対して覗きまがいの行いをする輩もいる。

しかしなぜそこまで世界に情報が溢れたのか?

それはひとえに「情報材」という発展にあった。

建築物の壁や柱などに「情報材」を使用することで前時代よりも地図アプリなどの位置情報は正確になり、建造物を透過して中身を観ることも可能になった。

それは舞台である京都でも発展し、いやその発展は京都を中心に行われた。

古き街並みを保存しながらも、その実は情報材によって囲まれていた。

また「情報材」以外にも進化があった。

それが「電子葉」である。

これを脳に移植することで、機器を使わず頭の中で直接ネットワークに繋げることが出来るのだ。

以上のような情報技術進化によって世界は格差も生まれながら、快適な社会を形成した。

そんな世界で主人公の連レルは恩師の道終・常イチ(みちおじょういち)が残した暗号を紐解き、とある少女と出会うことになる。

その少女の名が道終・知ル(みちおしる)

そして彼女はクラス9

連レルは彼女に振り回され様々な場所へ行き、様々な人と出会う。

第二章では神護寺で高僧と「悟り」について語り合う。

第三章では京都御所に貯蔵されている古文書の内容から黄泉への道を紐解く。

第四章では同じクラス9と今まで知り得た情報を通じて、人智を超えた邂逅をする。

そして連レルと知ルは「知恵の実」を齧る。

第五章では知ルの死体を見守る連レル。知ルは自ら死の世界に行った。知ルは死後の情報を獲得して、連レルのもとへ帰ってくるのか?

今までの各章で得た「情報」がまさしくここで収束していく。

そして最後に衝撃の結末を迎える。

読んだ感想

ライトノベル的な雰囲気もありつつ本格的なSFを描いている。

骨太なSF設定でありながら仏教思想や古事記などの考えも織り交ぜられている。

そのことによって今までにない京都×SFを完成させた。

また「知る」力の脅威に関しても言及している。というかこれが作品の主軸である。

仏教における「悟り」やイザナミイザナギから読み解く黄泉(死後の世界)への道筋。

それらSFとは全く真逆の知識をもって、そこにSF要素を掛け合わせる。

そして遂にはSFの力で死後の世界を知ることになる……かもしれない。

まぁ、そこは本書を読んで確かめてほしい。

そしてもし死後の世界を知ることによって、その後の世界はどう変容するのか?

情報とは詰まる所、記号化である。

曖昧や空漠な事象が記号化されることの結果とは想像すると、とても恐ろしいものではないかと考える。

芸術が明確な基準によって判断されてしまう。

あらゆる悩みや理想すらも誰もが理解できるものになってしまうかもしれない。

悩みが普遍化すればそれは苦しむことからの解放かもしれない。

しかし同時に自分だけだと思っていた感情や想像が誰もが理解できるデータになってしまったら、果たしてそこに個性は生まれるのだろうか?

先述した芸術には価値は発生するのか?

記号化とは明確な世界を作り出す影響力を持っている。

しかし対して世界をその程度のシロモノへと変化させてしまうのではないか?

死後の世界を知って、果たしてその世界はどのようになってしまうのか?

是非皆さんも本書を読んで考えてみてほしい。

最後に

読みやすいSFを今回も選んでみた。前回は『BEATLESS

どちらもSFの導入にはピッタリだと思う。

この機会にSF小説の面白さに気付いてみてほしい。

それではこの辺で。

know (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:野崎 まど
  • 発売日: 2013/07/24
  • メディア: 文庫