かぴばら先生は語る

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小説、アニメ、マンガ、文学からエンタメまで色々と話せたらと思い、ブログを開設。興味のある方はぜひご覧になってください。

【日常の謎】米澤穂信「小市民シリーズ」古典部とは違ったおすすめ青春ミステリー【読む順番】

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高校生の頃、米澤穂信古典部シリーズを読んで、こんな青春に憧れた。

決して輝かしい学生生活とは言えないのだが、そんな静かで、落ち着いて、どこか安心して、ノスタルジーが醸し出される、小さな、小さな世界なのだけれど、、、

そんな青春に憧れていた。

京都アニメーションでアニメ化されたのも思い出深い。

期待通りの、いや、期待以上の映像化で是非アニメもおすすめ。そして実写映画化もされている。

映画の方は大学一年生の頃、確か11月の第1週、土曜日だったと記憶しているが、公開日の朝、一番早い上映時間で観に行った。

この映画もおすすめだ。巷では批判される事もある実写『氷菓』だが、私は面白かったと思っている。

小説の新たな解釈をされていて、そうか、こうも考えられるのかと脱帽した。

なので自信をもって実写『氷菓』をおすすめしている。

というのが、古典部シリーズに対する思い出なのだが、そんな青春とは一風変わった、同作者の作品が、

「小市民シリーズ」なのである。

古典部シリーズは近くに連峰が聳え立ち、土着的な街並みが印象的な、とても静かな雰囲気のもと、少しビターな物語が紡がれていく。

対して小市民シリーズは同じ静かな雰囲気を持ちながら、古典部よりも苦さで言ったらビターを越してブラックな部分が垣間見える。

けれど「日常の謎」的にほっこりするような内容もある。

古典部シリーズと似ているようで少し違う。

今回はそんな小市民シリーズの読む順番やおすすめポイントを紹介できたらと思う。

読む順番

まず初めに、1~短編集まで紹介していこうと思う。

実際、それぞれ基本1話完結のものが多いので読みたい順番でどうぞ、というのが本音なのだが、ここでは出版年月順に紹介していき、少し時系列も説明できたらと思う。

そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を。

小市民を目指す小鳩君と小山内さんのコミカル探偵物語

 1.『春期限定いちごタルト事件

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2004/12/18
  • メディア: 文庫
 

小鳩君と小佐内さんは、恋愛関係にも依存関係にもないが互恵関係にある高校一年生。きょうも二人は手に手を取って清く慎ましい小市民を目指す。それなのに、二人の前には頻繁に謎が現れる。名探偵面などして目立ちたくないのに、なぜか謎を解く必要に迫られてしまう小鳩君は、果たしてあの小市民の星を掴み取ることができるのか?新鋭が放つライトな探偵物語、文庫書き下ろし。

 中学時代に問題ごとを推理したがる性格で何らかの失敗をしてしまった経験を持つ小鳩常悟朗。

そして常悟朗と同じような境遇を送った小山内ゆき。

二人はそんな過去から「小市民」を目指すべく、互恵関係を結んだ。

と言いながら、小鳩君は日常に潜む謎を結局解いてしまうし、小山内さんも狂気的な一面を抑えられなくなっていく。

この作品における過去の描写は今まで存在はしていない。おそらく刊行予定(未定)の冬期限定~にかかれるのだと思うが、そこを想像するのも一つの楽しみ。

また、小山内さんの心情に関してはブラックボックス化されており、彼女が何を考えているのかは読者にも分からない。

だからこそあるとき小山内さんの隠された一面を目の当たりにすると、少し怖くなる。

小鳩君もこれに関しては何か思うところがあるようなのだが、、、

何はともあれ、冬期限定~に期待したい。

小市民シリーズ最初の作品である『春季限定~』はそれぞれ1話完結のミステリー短編になっており、シリーズ通して一番読みやすいかもしれない。

手軽に導入に入れる構成になっている。しかし、1話完結でありながら、すべての短編を通して小山内さんに関する自転車盗難事件の伏線が張られており、最終話で解決に持っていく仕掛けになっている。

手軽に短編を読みながら、一つの長編としても成立しているので、ここにも注目していただきたい。

それぞれの短編でも私の一押しは、「おいしいココアの作り方」という短編である。

小鳩君と小山内さんは友人の堂島健吾の自宅で一工夫された「おいしいココア」をご馳走になった。

健吾が席を外して、その姉の千里と3人で台所を確認すると、シンクが乾いており、そこにはココアを溶くのに使ったスプーンしかなかった。

健吾はどのようにして鍋も使わず温めたミルクでココアを作り上げたのか。

こちらはコミックも上梓されているので、良ければこちらも。

春期限定いちごタルト事件 前 (Gファンタジーコミックス)
 
春期限定いちごタルト事件 後(Gファンタジーコミックス)
 

2.『夏期限定トロピカルパフェ事件

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2006/04/11
  • メディア: 文庫
 

小市民たるもの、日々を平穏に過ごす生活態度を獲得せんと希求し、それを妨げる事々に対しては断固として回避の立場を取るべし。賢しらに名探偵を気取るなどもってのほか。諦念と儀礼的無関心を心の中で育んで、そしていつか掴むんだ、あの小市民の星を!そんな高校二年生・小鳩君の、この夏の運命を左右するのは“小佐内スイーツセレクション・夏”!?待望のシリーズ第二弾。

 こちらも続いて連作短編形式。とても読みやすい。

時系列的には前作から1年経過して、彼らも高校二年生の夏を迎えた。

この作品では小山内さんの誘拐事件を軸に、これまでの小山内さんとの夏休み中の出来事を振り返って、彼女の少し不可解な行動を思い出していく構成になっている。

前作と少し似ている構成だ。

若者たちの裏の顔とも呼べる側面が出てくるので、なんだか浮世めいた事だったのが現実味を覚えて感じられる作品でもある。

時系列的には『春期~』の次に読むべきだろうと個人的に思う。

こちらもコミックが上梓されているようだ。

3.『秋期限定栗きんとん事件

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2009/02/28
  • メディア: 文庫
 
秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
 

あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。

ぼくは思わず苦笑する。去年の夏休みに別れたというのに、何だかまた、小佐内さんと向き合っているような気がする。ぼくと小佐内さんの間にあるのが、極上の甘いものをのせた皿か、連続放火事件かという違いはあるけれど…ほんの少しずつ、しかし確実にエスカレートしてゆく連続放火事件に対し、ついに小鳩君は本格的に推理を巡らし始める。小鳩君と小佐内さんの再会はいつ―。

 小鳩君と小山内さんがそれぞれに恋人を作って離れ離れになってしまう。

前二作で楽しんでいた二人の描写が無くなってしまう寂寥感などで読んでいて少し物足りない気持ちと、けれど新しい登場人物への新鮮な気持ちとを混在しながら読書した記憶がある。

しかし結局小鳩君と小山内さん二人でなければいけないんだよなぁ、と思わせる作品でもある。

小鳩君も恋人をそっちのけで謎ときに興じるし、小山内さんは小鳩君意外に抑えられる存在ではない(笑)

この作品では初めての上下巻。今迄は連作短編だったのが、初の長編ということもあり、ボリュームたっぷりの傑作になっている。

時系列は高校二年生の2学期から三年生の2学期まで1年間が描かれている。前作の『夏期~』の続きである。

『夏期~』を読み終えてから読むことをおすすめする。

『巴里マカロンの謎』

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 文庫
 

「わたしたちはこれから、新しくオープンしたお店に行ってマカロンを食べます」その店のティー&マカロンセットで注文できるマカロンは三種類。しかし小佐内さんの皿には、あるはずのない四つめのマカロンが乗っていた。誰がなぜ四つめのマカロンを置いたのか?小鳩君は早速思考を巡らし始める…心穏やかで無害で易きに流れる小市民を目指す、あのふたりが帰ってきました!

 何年ぶりの小市民シリーズ? と思ったら、11年ぶりだそうだ。想像以上。

時系列は高校一年生の秋から冬の出来事。

これに関しては『春期~』を読んでからでも良いし、文庫化順に『秋期~』の後でも良い。

私が小市民シリーズを読み始めたころにはこの短編集は全然発売前だったので、今から読まれる方は新たな読み順を試せる。

時系列順に読むのも良いかもしれない。

この作品は『春期~』を彷彿とさせるような構成で、それぞれが短編なのだが、最後の最後で、それぞれの短編で関係していた事が繋がるようになっている。

個人的に好きだったのは「伯林(ベルリン)あげぱんの謎」

あげぱんが一個足りないという日常の事件から謎解きが展開されていく、まさしく「日常の謎」といった感じの短編になっている。

最後に

最終的に読む順番は、

出版順は春期→夏期→秋期→巴里マカロン

時系列は春期→巴里マカロン→夏期→秋期

文芸誌掲載順とかになってくるとまた変わってくるが、そこまで深く突っ込む必要もないと思う。

基本的にはこの2パターン。

是非、お好みの順番で読んでください。

「小市民シリーズ」も「古典部シリーズ」同様、高校生のころ読んだ作品。

やはり青春っていいね!

フィクションだからこそ味わえる輝かしい青春もいいが、フィクションだからこそ味わえるビターでブラックな青春もどうだろうか?

今後、他にも米澤穂信作品を紹介できたらと思う。もちろん「古典部シリーズ」も。

それではこの辺で。