かぴばら先生は語る

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小説、アニメ、マンガ、文学からエンタメまで色々と話せたらと思い、ブログを開設。興味のある方はぜひご覧になってください。

【おすすめミステリー】京極夏彦『姑獲鳥の夏』本格ミステリーの嵐! 伝説のデビュー作【京極堂シリーズ】

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怪異という存在は人間が生んだ幻想という名の化け物である。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ」

今回紹介するのは京極夏彦の処女作『姑獲鳥の夏

民俗学や精神医学、東洋思想、脳科学とあらゆる学術的知識が詰まった作品であり、それらの中心にはエニグマとして妖怪が関係してくるという、とても整合的にまとめられそうにない内容に混沌を予期してしまうが、しかしそれを見事に理論化された妖怪談義、そしてミステリーは圧巻である。

今や有名となったメフィスト賞の契機になったのがこの京極夏彦の『姑獲鳥の夏

講談社に『姑獲鳥の夏』を送ったことからすべては始まったのだ。

そんな『姑獲鳥の夏』、それでは。

京極夏彦姑獲鳥の夏

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

  • 作者:京極 夏彦
  • 発売日: 1998/09/14
  • メディア: 文庫
 

この世には不思議なことなど何もないのだよ――古本屋にして陰陽師(おんみょうじ)が憑物を落とし事件を解きほぐす人気シリーズ第1弾。東京・雑司ヶ谷(ぞうしがや)の医院に奇怪な噂が流れる。娘は20箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したという。文士・関口や探偵・榎木津(えのきづ)らの推理を超え噂は意外な結末へ。京極堂、文庫初登場!

どこまでもだらだらといい加減な傾斜で続いている坂道を上り詰めたところが、目指す京極堂である。

 以上の一文からこの物語は幕を開く。

小説家の関口巽(せきぐち たつみ)は友人である中禅寺秋彦(ちゅうぜんじ あきひこ)の元へ訪ねるべく、梅雨も明けようかという夏の陽射しを受けながら眩暈坂を登っていた。

眩暈坂を登った先に目的地の京極堂がある。

ちなみに「京極堂」は中禅寺秋彦の屋号である。

関口は最近耳にした噂、久遠寺家のまつわる奇怪な話に、京極堂なら何かわかるのではないかと頼りにして訪れたのである。

その噂というのが「二十箇月もの間子供を身籠っている女がいる」というものだった。

京極堂は驚く素振りもなく「この世には不思議なことなど何もないのだよ」と返答する。

これこそ京極堂の決め台詞である!

久遠寺梗子(くおんじ きょうこ)の夫で、関口らの友人だった男、牧朗(まきお)の失踪、連続する嬰児(えいじ)死亡、憑物筋の呪い、久遠寺にまつわる事件や呪いはあらゆる展開を呼び、

超能力探偵・榎津礼次郎(えのきづ れいじろう)

京極堂の妹で編集記者・中禅寺敦子(ちゅうぜんじ あつこ)

京極堂らの友人の刑事・木場修太郎(きば しゅうたろう)

らを巻き込んで事件は思わぬ事態に進展する。

そして遂に、満を持して、憑物落としであり、探偵役の京極堂が現れるのである。

読んだ感想

上下巻に分けられた文庫本もあるが、まずあの分厚いノベルスないし文庫本を手に取ってほしい。

この分厚さこそ京極夏彦なのだから!

しかし、その見た目と裏腹に案外すぐに読めてしまうのが京極夏彦作品の不思議なところであり、面白いところである。

すらすらとページを繰る速度は衰えずに、そのまま結末へと急速していく。

ページ数に慄かず、一度読んだら止まらなくなるので、ぜひ偏見など持たずに、敬遠した人も、一度は眼を通してほしい。

内容に関しては、あらゆる学術的知識が噴水の如き湧き上がり続ける様は読んでいて興奮にも似た快感を得ることだろう。

なんと言っても妖怪談義、それらを整えるための脳科学や精神医学、果ては量子力学の理論を用いた理論化は舌を巻いてしまう。

雰囲気はホラーやサスペンスを想像していたが、読んで驚き、本格的な推理小説という体裁をも獲得している作品なのである。

重厚なミステリーとしても楽しめる。

また色とりどり、一癖も二癖もある登場人物たち。

特に榎津礼次郎はシリーズ屈指の人気キャラクター。

薔薇十字探偵社の私立探偵。

戦時中の照明弾の後遺症で弱視であり、その結果か分からないが、他人の記憶を視るという特殊能力を所持している。

その結果、今回で言えば榎津の能力で関口の記憶が事件に大きく関わっていることを突き止めている。

推理小説としてはどうにも破格の能力のような気がするが、しかしこの作品の探偵役がそんな榎津ではなく京極堂であるところが魅力であり、肝なのである。

そして事件の解決ではなく、京極堂は「憑物落とし」と呼んで、解決に向かう。

ここも京極堂シリーズの妙である。

推理小説の体裁をとりながら、決して京極堂はこれを探偵の所業と取らずに、拝み屋としての仕事として捉えている。

しかしてその憑物落としは論理的推理展開によって確立させるという方法をとっている。

なんともアンバランスのようで、しかしだからこそのこの作品の面白さなのだ。

これは妖怪を論理の檻へと封じ込めるミステリーなのである。

是非ご一読をお勧めする。

最後に

マンガなどもお勧めできればと思う。アニメの紹介もできればしたい。

それではこの辺で。

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

  • 作者:京極 夏彦
  • 発売日: 1998/09/14
  • メディア: 文庫