かぴばら先生は語る

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【純文学】おすすめ青春文学! 町屋良平の『青が破れる』楽しきは爽やかなあの頃、そしてそれは有限【文藝賞受賞作】

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芥川賞作家のひとり、町屋良平の処女作。

『青が破れる』

描かれているのはふわりと何処かに飛んでいきそうな、とてもとても軽い言葉たち。

なのにどうしてここまで胸を苦しめるのか?

小学生でも読める文章なのに、表現されているのは大人のための叫びである。

そんな『青が破れる』

さて、どのような作品か。

町屋良平『青が破れる』

青が破れる (河出文庫)

青が破れる (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/02/05
  • メディア: 文庫
 

ボクサー志望のおれは、友達のハルオから「もう長くない」という彼女・とう子の見舞いへひとりで行ってくれと頼まれる。ジムでは才能あるボクサー・梅生とのスパーを重ねる日々。とう子との距離が縮まる一方で、夫子のいる恋人・夏澄とは徐々にすれ違ってゆくが…。第53回文藝賞受賞の表題作に加え二編の短篇、マキヒロチ氏によるマンガ「青が破れる」、そして尾崎世界観氏との対談を収録。

 ボクサー志望の「秋吉(おれ)」は友人の「ハルオ」から彼の恋人「とう子」が白血病で、もう長くないことを告げられる。

とう子は自分が病気で死ぬかもしれないというのに煙草を吸ったりと楽観的な態度をとっている。

彼女に言わせれば確率の問題だと。

死ぬか生きるかは自分の健康に関係ないと言う。

秋吉には恋人がいる。

「夏澄」という女性で夫と息子がいる。

夏澄は優しく秋吉を受け入れる。

息子の「陽」はとても子供っぽいように見えてどこか事実を俯瞰しているような大人びた印象も受ける。それはもしかしたら純粋だからこその客観性なのかもしれないが。

秋吉と同じジムに通う才能を期待された後輩「梅生」

こいつはボクサーを真剣に目指している。だからどこに行ってもトレーニングの一環として、すべてをボクシングのために生きているような奴。

しかし何故だかスパーの相手に秋吉を指名する。秋吉とは実力が違いすぎるのに、彼は秋吉を気に入っている。

以上が主な登場人物。

秋吉は本気でボクサーになりたいのか?

そんな根本的疑問を持ちながら、余命を宣告された友人の恋人やそれに悩む友人や優しい人妻の恋人や、才能ある後輩や……

様々な人物と関わりながら秋吉は青春を過ごしていく。

読んだ感想

とても軽く、爽やかな文体は読みやすく、スッと心に浸み込んでくる。

しかし浸み込んでから感じるのは得体のしれない恐怖だった。

その「青」は楽しそうで、美しく、きらきらした快感のようで、それが自分の身体に侵入すると、たちまち苦しく、切ない感覚に襲われる。

読んでいる直後には分からなかった感覚が徐々に正体を現して私にこの物語の残酷さを突き付けてくるのだ。

秋吉のモヤモヤ感に終始覆われているこの作品は、しかし誰かの視点を想像すれば、彼よりも精神を病んでいる人物が沢山いる。

最終的にその人物たちは秋吉を飛び越えて先の世界に行ってしまう。

それに比べれば秋吉の苦悩は人並みのように感じられた。

秋吉は誰もが所持している曖昧な苦痛、現状への否定感を感じているだけだと思う。

だからこそ私たちはこの物語に登場する人物たちに愛着を持ち、それらを失うことがどうしようもなく寂しく、悲しいのだ。

秋吉からの視点によって作品世界は無条件で普遍性を獲得したのだ。

だから、その世界に居住する彼ら彼女らも一緒の普通であると思ってしまう。

この世界は思った以上に醜く、愚かしい残酷な世界なのだ。

この爽やかさは何だろうか?

透徹な感情は嘘ではないか?

文体が平易で、物語の調子が軽く、透き通っているから錯覚してしまう。

私たちはその錯覚を失って初めて何かに気付かされる。

青が破れる、とはそういうことなのかもしれない。

文庫本に『青が破れる』以外に『脱皮ボーイ』という短編も収録されている。

こちらの作品は『青が破れる』とはまた違った味を染み渡らせた作品になっている。

また町田良平とアーティストの尾崎世界観との対談も収録されていた。

そちらも読みごたえがあるので是非読んでいただきたい。

最後に

ここ最近はずっと青春を描いた作品が多いので、次はもっと青春とは畑違いな作品を紹介したいと思っている。

ではこの辺で。

青が破れる (河出文庫)

青が破れる (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/02/05
  • メディア: 文庫