【おすすめ青春小説】王城夕紀の『青の数学』美しさを競い合う、数学という名の青春!
数学とは美しさを追い求める学問である。
そこに利益を求めるのは別の者でいい。
数学者は難攻不落の謎と対峙する探究者なのだ。
私も数学の魅力を実際に知っているかと言えば、全然分からないのだが、今回紹介する作品を読めば、数学が何だか面白そうなものなんだと少しでも実感できるかもしれない、と思った。
最近では京大の教授が「abc予想」を証明したというニュースがあったが、数学とはまさしくそういった「予想」と呼ばれる謎を証明する学問でもある。
有名な予想では「フェルマーの最終定理」を聞いたことはないだろうか?
約300年間解けなかった世界の難題。
20世紀の最後にしてアンドリューワイルズが解き明かしたのだ。
そこには「谷村=志村予想」や「岩澤理論」といった日本の数学者の理論や予想も関係していた。
この「フェルマーの最終定理」に関してはフィクションさながらの歴史が紡がれていた。
この時点で気になった方はこんな本があるので是非読んでもらいたい。
先日、中田敦彦さんの「YouTube大学」というチャンネルで上記の書籍について紹介していた。
それを観て、そういえば数学って面白そう、と思わせてくれた小説があったなと、本棚を探って、今回この作品の紹介までに至ったのである。
『青の数学』
今回はこの作品について紹介する。
数々の高校生が数学、ただそれだけに青春を費やす物語である。
王城夕紀『青の数学』
作品内では色々な数式が現れるのだが、正直、その数式自体は理解できなかった。
けれど分からなくても面白い!
私たちが読んでいるのは数学の本質ではなく、それに情熱を注ぐ人物たちを読んでいる感覚に近い。
そして彼ら彼女たちが何に対して語り合っているのか、根本は分からずとも、その情熱などが体感できる物語になっている。
数学と聞いて敬遠していた人も、少しだけでも読んでみてほしい。
これは数学についての作品ではなく、数学という名の青春についての作品なのである。
1.『青の数学』
雪の日に出会った女子高生は、数学オリンピックを制した天才だった。その少女、京香凛の問いに、栢山は困惑する。「数学って、何?」―。若き数学者が集うネット上の決闘空間「E2」。全国トップ偕成高校の数学研究会「オイラー倶楽部」。ライバルと出会い、競う中で、栢山は香凛に対する答えを探す。ひたむきな想いを、身体に燻る熱を、数学へとぶつける少年少女たちを描く青春小説。
主人公の栢山はある雪の降りしきる日に女子高生に会った。
その女子高生は数学オリンピックを制した天才、京香凛だった。
彼女との出会いを契機に栢山は数学にのめり込む。
そして彼女の問い「数学って、何?」について考える。
栢山はネット上で数学で競い合う「E2」で決闘を行って、様々なライバルと対峙する。
試合は三日間など日を跨いで行われたりする。長期戦である。長い間、どちらが数学に対して集中を切らさないか。
精神力や時間配分が勝負のカギになってくる。
そんな「E2」のつわもの達が集まる夏合宿では日本各地の数学の天才が一堂に集結。
この夏合宿が作品内で一番の見どころ。
戦ってきたライバルと手を組んで問題を解く。
他のライバルの脱落。
最強の相手と目される強者との対決。
ここまでくるとジャンプマンガのような熱いバトルが繰り広げられる。
そう、この小説は恋愛や友情などを主軸にした青春ではない。
数学を用いた戦いによる、熱い青春なのだ。
少年漫画のように熱いのだ。
数学はカッコイイものだと思えてくる。
数学に向かう若者たちのその情熱の迫力に私たちはいつしか、同じ様に熱い感情を向け始める。
2.『青の数学2 ユークリッド・エクスプローラー』
数学オリンピック出場者との夏合宿を終えた栢山は、自分を見失い始めていた。そんな彼の前に現れた偕成高校オイラー倶楽部・最後の1人、二宮。京香凛の数列がわかったと語る青年は、波乱を呼び寄せる。さらに、ネット上の数学決闘空間「E2」では多くの参加者が集う“アリーナ”の開催が迫っていた。ライバル達を前に栢山は…。数学に全てを賭ける少年少女を描く青春小説、第2弾。
この巻では前作のような熱い数学バトルの連続はあまり見受けられない。
そういった点では前作の方が情熱をひしひしと感じられた。
しかしこの巻では主人公、栢山の数学をする意味についての苦悩が描かれている。
何故ここまで頑張らなければいけないのか?
何故努力するのか?
何故青春を捧げるのか?
栢山は思うように数学に打ち込めなくなってしまう。
こころが折れる栢山。
さて、どうなるか、というのがこの2巻での話。
読んだ感想
2巻以降シリーズの続編は出ていないので、もう続きはないのかもしれない。
2巻の最後も何だかこれで終わりなのかな、という名残を遺して幕を下ろしている。
しかして、この全2巻に数学の青春が詰まっている。
1巻で情熱ほとばしる熱い青春を。
2巻で苦悩で胸を締め付ける哀愁の青春を。
それぞれに数学が楽しい、そして数学が辛い。
表裏どちらとも、数学による青春の両面を描いている。
だからこそ数学がどうしようもなく愛おしく感じてくる。
私はずっと前から数学が好きだったのではないかと思えてしまうほどに説得力のある物語になっている。
数学という、今迄興味を抱いていなかったジャンルにここまで青春を捧げる人間がいるのだと、そしてその青春を捧げる人の姿は素晴らしく美しく素敵だと気付いてほしい。
私たちがまだ気づいていないだけでこの世にはこんなにも楽しそうなモノがまだまだ存在しているのだ!
自分には何もない、何もしたいと思えない人に読むことを勧める。
どんな契機でも良い。
そこにどれだけの情熱を注げれるかで、それが美しいか否かが決まるのだ。
最後に
小説はどんな分野にも囚われない能力を有している。
だからこそ今回のような作品が誕生するのだ。
小説の可能性は無限大!
ということで今回はこの辺で。