かぴばら先生は語る

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小説、アニメ、マンガ、文学からエンタメまで色々と話せたらと思い、ブログを開設。興味のある方はぜひご覧になってください。

【おすすめ青春ライトノベル】庵田定夏の『アオイハルノスベテ』! 『ココロコネクト』に続く青春ファンタジー

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アニメ化もした『ココロコネクト

その作者、庵田定夏の次作が『アオイハルノスベテ』

前作と同じく青春群像劇というフォーマットは同じだが、異能力という、一見青春小説には似つかわしくない要素を加えることで、今までにない青春物語を紡ぎ出している。

淡く、切なく、辛く、苦しい。

思春期特有の様々な感情を抱きながら、彼ら彼女らは異能力という特別な力のもと、また大きく歪な問題を抱え込んでしまう。

そして事件は起きていく。

今回はそんな『アオイハルノスベテ』を紹介。

全5巻でシリーズものにしては比較的短めの作品になっている。

すぐ読めてしまうので、その点もおすすめ。

それでは、1巻ごとに紹介していこうと思う。

『アオイハルノスベテ』

設定としては輪月高校という学校に通う者だけが発症する不思議な能力《シンドローム

その能力は輪月高校の生徒しか認識することが出来ない能力で教師や学校外の人たちには何も見えていない。

また学外ではその能力を使用できない、というなんとも扱いにくい、言ってしまえば意味があるのかよく分からない能力なのだが、

その能力によって学校でのヒエラルキーが形成されていく。

当初は珍しがられた《シンドローム》も、能力を持っていない人からの反感により、いつしか煙たがられる様になっていく。

結局人は差別を生んでしまう。

いじめやシカトや、人の根底は変わらないことを示唆している。

庵田定夏×白身魚が送る完全新作、始動!

「もう一度、高校生活をやり直せるとしたら、どうする?」

『アオイハルノスベテ』1巻

アオイハルノスベテ (ファミ通文庫)

アオイハルノスベテ (ファミ通文庫)

  • 作者:庵田定夏
  • 発売日: 2014/08/30
  • メディア: 文庫
 

輪月高校に入学した生徒だけが発症する不思議な力―“シンドローム”。その力で横須賀浩人は、強制的に時間を巻き戻されてしまった。どうしてこんな状況になったのか、誰の力が原因なのかも分からない。残っていたのはかすかな記憶だけ。そんな中で浩人が掲げた目標は―白紙になった三年間を、最高の高校生活としてやり直すこと!?幼なじみやマニアックな友人、さらに近寄りがたい美少女との接触からすべてが始まる、オールデイズ青春グラフィティ!!

 主人公の横須賀浩人は誰かの《シンドローム》によって強制的に時間を高校一年生まで巻き戻されてしまった。

三年間の記憶は思い出せず、わずかに残った曖昧な記憶をもとに浩人は最高の高校生活をやり直すことを目指す。

唯一分かっていることは何もせずにこのままでいると3年後に横須賀浩人は死ぬ。

疎遠になっていた幼馴染や、プロレス好きの女友達や、クラスメイトの誰とも関わらない孤高の美少女などと接触していくうちに、浩人はこの学校の問題に直面していく。

そういえば《シンドローム》オタクの男友達もいたっけか。

教室の端っこにいた浩人たちは、美少女、大河内葵の提案で学校内で次々に発生する《シンドローム》の仕業と思われる事件を調査することになる。

しかし、絶対的権力を有する生徒会や能力を認知できない教師陣など、人知を超えた、計り知れない能力を排斥していく風潮に立ち阻まれてしまう。

そこで彼らはそんな排斥ムーブメントをひっくり返すべく《シンドローム》を使ったイベントを企画する。

1巻は世界観の説明でありながら、物語としても一つうまくまとまっている。

《シンドローム》によって生まれる人間関係、それを影響させるそれぞれの主張、そして風潮。

前半部分はよんでいてとても苦しくなる場面が多々あるので気を付けてほしい。

しかし最終的には晴れやかな結末を一応は迎える。

何故「一応」かと言えばまだまだ謎が放置されているからだ。

そうして2巻へと続く。

『アオイハルノスベテ』2巻

アオイハルノスベテ2 (ファミ通文庫)

アオイハルノスベテ2 (ファミ通文庫)

  • 作者:庵田 定夏
  • 発売日: 2014/11/29
  • メディア: 文庫
 

「世界をやり直したいと思う?」まひるの問いかけに、驚きながらも詰め寄る浩人。しかし彼女が出したのは、文化祭の成功という交換条件と、二カ月後に学校を辞めるまで待って欲しいという予想外の要求だった。その上、まひるが新たな“シンドローム”―過去を読み取る力を使えることを知り…!?かくして始まった、死ぬ気で取り組む文化祭。果たして浩人はまひるの望みを叶えることが出来るのか!?オールデイズ青春グラフィティ、想いと涙の第二巻!!

 1巻では主に世界観の設定と幼馴染である岩佐美帆にヒューチャーした巻だった。

この2巻では友人の木崎まひるをヒューチャーする巻である。

舞台は文化祭。

彼女は過去を読み取るシンドロームを発現させ、「あんたの夢を見たことがある」と言って、その秘密を教える代わりに、文化祭の成功、そして2ヶ月後に転校するまで待ってほしい旨を伝える。

かくして浩人は「死ぬ気で文化祭」に取り組むことになった。

最初の方では浩人はいずれ死んでしまうことで人と親しくなることを無意味だと説き、大河内と関係が悪化していき、文化祭の準備の雰囲気は最悪になってしまう。

この場面は読んでいてしんどくなる。前巻でも同じく中盤までは辛い描写の連続だが、しかしとても秀逸な表現が沢山あるので、苦しいけれど、その後に何かしらの光があると信じて読み進めてほしい。

そんな浩人を危惧して彼に寄り添うのが前回の活躍で少し明るい性格になった岩佐である。

幼馴染としての距離感、いつもは内気な性格の岩佐だが浩人の事を想って頑張る彼女の姿は読んでいてとても胸に来るものがあった。

恐らく岩佐は浩人のことが好きなのだ。しかし浩人の周りには木崎や大河内と言った岩佐とは真逆の、明るく、堂々とした人たちがいる。

岩佐はそんな彼女たちから一歩引いた立場にいるが、浩人への思いは人一倍である。

個人的に一番好きなキャラクターでもある。そんな岩佐にも注目していただきたい。

浩人周りの友人関係にも動きがあるが、もちろん《シンドローム》の方でも動きがある。

1巻よりも一層大きな展開が待っている。

『アオイハルノスベテ』3巻

アオイハルノスベテ3 (ファミ通文庫)

アオイハルノスベテ3 (ファミ通文庫)

  • 作者:庵田 定夏
  • 発売日: 2015/05/30
  • メディア: 文庫
 

卒業しても『輪月症候群』を継続する方法がある。その情報を掴んだ浩人は、柳沼とともに“スタンプ”の能力を持つ卒業生に会いに行く…予定が、葵やまひる、美帆も参加を申し出て、大所帯の旅行に発展!男女で海、バーベキューに宿泊と一度目の人生では考えられない夏休みを過ごすことになった浩人。メンバーの誰もがハメを外して旅を満喫していたはずだったのだが―「お前が、世界をやり直したのか?」オールデイズ青春グラフィティ、再生の第三巻。

 個人的には一番好きな巻数。

何故かと言えば舞台が学外での活躍だから。

やはり読んでいて学校というのは青春の聖域ではあるのだが、窮屈な印象も受けてしまう。

だからこそ、そんな学生の登場人物が学校を飛び出しての動きは読んでいて新鮮で、開放感あふれる感覚。

また内容に関しても、通常は学校内でしか使うことのできない《シンドローム》を学外でも使用できる。ましてや卒業しても能力を継続できる方法がある。

この情報を調査するために浩人たちは夏休みを使って旅行に出かけるのである。

3巻にして緩急をつけてきた今巻。ここから折り返し、と思いきや……

『アオイハルノスベテ』 4巻

アオイハルノスベテ4 (ファミ通文庫)

アオイハルノスベテ4 (ファミ通文庫)

  • 作者:庵田 定夏
  • 発売日: 2015/11/30
  • メディア: 文庫
 

輪月高校が廃校になる。激動の夏休み旅行が終わり、しばしの平穏を満喫する浩人たちにそれは唐突に告げられた。高校がなくなれば“シンドローム”は消えてしまうのか。浩人に訪れるはずの未来、死は回避できるのか。動揺しながらも浩人は生徒会長の瓜生と臨時タッグを組んで抵抗するのだが…。旧校舎の取り壊しが始まったその時、世界は変わった。学生にしか見えなかった能力は―遂に現実のものとなる。オールデイズ青春グラフィティ、第四巻。

 輪月高校が廃校になる。まさしくその言葉でいっきに物語は急加速する。

《シンドローム》の存続。

浩人の死。

旧校舎。

現れた卒業生たち。

様々な出来事が山盛りの4巻。

生徒会とも手を組んで廃校を阻止する生徒たちだが、ここには大人たちの思惑が見え隠れする。

ここにきて大人たちの本格的な輪月高校の解体が表立ってきた。

そしていままでは学生間の幻惑だった《シンドローム》が現実に干渉し始める。

旧校舎の解体工事が始まる刹那、炎使いの田宮健太の能力が暴走。

防塵シートを燃やしてしまう。

現実に影響を及ぼすほど強化された《シンドローム》は本当に危険なモノへと転化する。

はたして《シンドローム》の問題はどうなるのか?

廃校は撤廃されるのか?

急展開の連続で、最後読み終わったときは「え? これでこのシリーズ終わるのか?」と次巻の展開が予想できなかった。

では、次巻どうなるのか?

驚くべきことに大筋の物語はこの巻で終了する。

次巻はおまけのような話だった。

このこともあって私は最近まで5巻を本棚に置いたまま読んでいなかった。

何を思ったか5巻を読んでみようと思い、そして今回の紹介に至ったのだ。

それでは最終巻。

『アオイハルノスベテ』5巻

アオイハルノスベテ5 (ファミ通文庫)

アオイハルノスベテ5 (ファミ通文庫)

  • 作者:庵田 定夏
  • 発売日: 2016/05/30
  • メディア: 文庫
 

「わたしは、横須賀君のことが好きです」「ねえ、あたし達付き合ってみない?」「最後には私を選ばせてみせるから―」廃校騒動が収まり、学校に復帰した浩人を待っていたのは、美帆にまひる、そして葵からの猛アピールだった!?そんな中、対立していた会長の瓜生からOB祭で過去の遺恨を清算しようと持ちかけられ、柳沼からも『輪月症候群』の謎に迫るため、あの事件を検証しようと詰め寄られて!?オールデイズ青春グラフィティ、ここに完結!

 遂に完結! といっても最終巻は今までの壮絶な物語の空気は何のその、モテモテ状態の横須賀浩人たちの恋愛模様にスポットを当てた作品。

前巻は学校関連の一応の決着。

今巻では恋愛に関しての決着である。

最後横須賀浩人が選ぶ女性とはだれなのか?

物語の質は圧倒的に前巻までの方があったが、こちらはこちらで気になる内容だった。

個人的には岩佐に頑張ってほしいのだが……

結末はどうぞご確認ください。

最後に

ここで終わるのか! と非常に勿体ない気もするのだが、これはこれで短くまとめたことを賞賛すべきだろう。

この5巻に様々な物語が紡がれている。5巻とは思えないほどのボリューム。

少し変わった設定の青春小説でありながら、青春小説らしい青春小説という稀有な作品。

是非、一度は読んでほしい作品である。

ということで今回はこの辺で。

PS.YouTubeで『アオイハルノスベテ』のPVがあったので載せておく。


『アオイハルノスベテ』発売記念PV