かぴばら先生は語る

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小説、アニメ、マンガ、文学からエンタメまで色々と話せたらと思い、ブログを開設。興味のある方はぜひご覧になってください。

【本格ミステリー】平成のエラリー・クイーン! 青崎有吾の「裏染天馬シリーズ」の読む順番【鮎川哲也賞受賞作】

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ポップなイラストの表紙を見て、ライトなミステリー小説なのかと思った。

体育館らしき建物の前で傘をさす女生徒。

学校もの、青春もの。

思い付くのは米澤穂信の「古典部シリーズ」や初野晴の「ハルチカシリーズ」など。

その方面の作品なのかと思ったら、全然違った。

勘の鋭い人間なら第一作の『体育館の殺人』というタイトルから予想がつくかもしれないが、

そう、綾辻行人の「館シリーズ」を彷彿とさせる。

つまりとても本格的な推理小説として成立しているのである。

舞台は学校でキャラクターはキャッチ―な登場人物たち。

読みやすい基盤のもとで本格的なミステリーを創り上げている。

平成のエラリー・クイーンのデビュー作、そこから生まれた「裏染シリーズ」を今回は紹介する。

「裏染天馬シリーズ」

現在出版されているのは4作品。

『体育館の殺人』

『水族館の殺人』

『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』

『図書館の殺人』

すべて文庫化されているので手軽に読めるシリーズになっている。

続編はまだ発表されていないが、主人公の裏染天馬などの過去や問題などが山積みなので、辛抱強く続きを待ちたい。

このシリーズ通しての見どころはなんと言っても見事な論理展開による謎解き。

エラリーン・クイーンさながらのロジックの構築。

驚くべきトリックを推理して暴くのではなく、あらゆる可能性からロジックをもって少しずつ可能性を減らしていくのが素晴らしいのだ。

トリック一発勝負が昨今の推理小説でも散見されるが、この作品では重厚な推理描写を楽しめる。

叙述トリックなどに疲れた人に原点回帰として読んでほしい。

また若い人にもまずミステリーの導入としておすすめしたい作品である。

それでは第一作から見ていきたいと思う。

1.『体育館の殺人』

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

 

放課後の旧体育館で、放送部部長が何者かに刺殺された。外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった!?現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部の部長のみに犯行は可能だと、警察は言うのだが…。死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のため、学内随一の天才・裏染天馬に真相の解明を頼んだ。なぜか校内で暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に―。エラリー・クイーンを彷彿とさせる論理展開+抜群のリーダビリティで贈る、新たな本格ミステリの登場。若き俊英が描く、長編学園ミステリ。

 「❝平成のエラリー・クイーン❞ 衝撃のデビュー」

と、文庫本の帯に書いてあった。

『Xの悲劇』などで知られるミステリー作家のレジェンド、エラリー・クイーンの再来とまで絶賛するとは、さてそんなにスゴイのか、と意地悪な私は思ってしまう。

しかし読んでみたら圧巻だ。

探偵役はアニメオタクの天才高校生、裏染天馬。

語り部は卓球部の少女、袴田柚乃。

そのお兄さんが刑事の袴田優作。

所々でアニメの小ネタが散在していて個人的には面白い、しかしミステリー好きからすると、やはりラノベ風の中途半端な推理小説と思われるかもしれない。

しかし待ってほしい。というか待たなくても読めばわかる。

緻密な構成によって一つ一つのガジェットが機能しているこのミステリーの舞台を、最後の最後で遂に目の当たりにする快感と衝撃は得も言われない感慨に陥る事だろう。

正直このシリーズはそれぞれ一冊でミステリーとして完結しているので、どの巻から読んでも楽しめるのだが、その推理小説という枠組みとは別にシリーズものとしてキャラクターの物語が見え隠れしている。

その点からも、まず手始めにこの『体育館の殺人』から読み始める事をおすすめする。

2.『水族館の殺人』

水族館の殺人 (創元推理文庫)

水族館の殺人 (創元推理文庫)

 

夏休みも中盤に突入し、風ヶ丘高校新聞部の面々は、「風ヶ丘タイムズ」の取材で市内の穴場水族館に繰り出した。館内を館長の案内で取材していると、サメの巨大水槽の前で、驚愕のシーンを目撃。な、なんとサメが飼育員に喰いついている!駆けつけた神奈川県警の仙堂と袴田が関係者に事情聴取していくと、すべての容疑者に強固なアリバイが…。仙堂と袴田は、仕方なく柚乃へと連絡を取った。あのアニメオタクの駄目人間・裏染天馬を呼び出してもらうために。平成のエラリー・クイーンが贈る、長編本格推理。

 今度の舞台は水族館。

そして容疑者は11人!

ロジック推理は健在で、前作よりも容疑者の多いことからも内容も濃密になっている。

そしてこの作品は犯人の動機もしかっりと描写されていた。

犯人が捕まっての最後のシーンも中々思い出深い。

読み応えが更に増した二作目になっている。

3.『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

 

夏祭りにやって来た、裏染天馬と袴田柚乃たち風ヶ丘高の面々。たこ焼き、かき氷、水ヨーヨー、どの屋台で買い物しても、お釣りが五十円玉ばかりだったのはなぜ?学食や教室、放課後や夏休みを舞台に、不思議に満ちた学園生活と裏染兄妹の鮮やかな推理を描く全五編。『体育館の殺人』『水族館の殺人』に続き、“若き平成のエラリー・クイーン”が贈るシリーズ第三弾は、連作短編集。

 シリーズ初の連作短編形式である。

短編集なので前作、前々作よりも身構えて読む必要はない。

気軽な気持ちで短編を読んでほしい。

しかし短編だからと言ってこのシリーズのロジック推理はこちらも健在!

短編なのによく出来ている作品ばかりなので、いつもよりもコンパクトで、しかして推理力はいつもと同じ、いやそれ以上の今作を楽しんでいただきたい。

裏染天馬の物語にも動きがあるのでそちらも注目。

4.『図書館の殺人』

図書館の殺人 裏染シリーズ (創元推理文庫)
 

期末テスト中の慌ただしい9月、風ヶ丘図書館で死体が発見された。閉館後に侵入した大学生が、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺されたらしい。しかも現場には一冊の本と謎のメッセージが残されていた。警察に頼まれ独自の捜査を始めた裏染天馬は、ダイイングメッセージの意味を解き明かせるのか?ロジカルな推理、巧みなプロットで読者を魅了する“裏染シリーズ”第4弾。

 短編を挟んでの帰ってきた長編小説、シリーズ第4弾。

個人的にこの『図書館の殺人』が一番のお気に入り。

本格推理小説として巧みな物語構成。

シリーズ小説としても、絶妙なキャラクター配置など、今までの集大成とも呼べるような作品に仕上がっている。

今回の謎の中心はダイイングメッセージ。

ミステリーおなじみのガジェットだが、そこからの推理の展開はやはり圧巻。

ここまで読んだらもうこのシリーズの虜。

最後に

お手本のようなミステリーでありながら、決して簡単にはまねできない推理描写の手腕。

初めての本格的なミステリーを所望の若い人たちに特におすすめしたい作品になっている。

まずここから読んで、本格推理小説の取っ掛かりにしてもらいたい。

そしてその先に、新本格の作品や過去の代表的な推理小説に興味を持っていただければ幸い。

国内も海外も推理小説は面白いものが沢山あるので。

推理小説に関してはまたいろいろと紹介できたらと思う。

それでは今回はこの辺で。

PS.試しに少しだけ、という方はこういうの↓もあるようだ。

【東京創元社無料読本】 青崎有吾の挨拶

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