【おすすめライトノベル】さがら総『さびしがりやのロリフェラトゥ』怪奇! 青春ラノベの新世界!【ガガガ文庫】
吸血鬼とは何者か?
それは血を吸う化け物の類だと噂されている。
血を吸うことでその対象者の生気を奪い取り、生前と変わらぬ姿を手に入れている。
つまり、永遠の若さを手に入れ、死という概念からの脱却を獲得しているのである。
昨今のフィクションでは吸血鬼に血を吸われた対象者は眷属として吸血鬼の仲間入りを果たすらしい。
また蝙蝠や鼠、虫などに変身することも可能で、しかし日光は弱点であり、地域によってはキリスト教の祭日などにも活動は困難らしい。
元々何故吸血鬼になってしまうのか?
先述したように吸血鬼に血を吸われたことによって眷属になる場合もあるが、ではそれ以外は?
一説によると生前に神を冒涜、犯罪に手を染める、事故死、自殺などの原因が考えられる。
吸血鬼の名を知らしめたのは「物語」の影響力もある。
ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』、シェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』など。
それぞれにヴラド三世、カーミラの名はドラキュラという存在の確立に一役担っているのは過言ではない。
しかして実際に「吸血鬼」とは、本当は何者なのだろうか?
見たことがあるだろうか?
会ったことがあるだろうか?
彼ら彼女らは、本当に言い伝え通りの存在なのだろうか?
この世には不思議が満ちている。
私たちが想像を絶する存在がまだこの地球にいるのかもしれない。いや地球を飛び越え宇宙ならもう少し可能性のある話だとは思わないだろうか。
そんな吸血鬼や宇宙人などが登場するお話。
それが『さびしがりやのロリフェラトゥ』である。
さがら総『さびしがりやのロリフェラトゥ』
ぼくらの学校には、世にも奇妙な吸血姫が住んでいる。悩める女子高生、常盤桃香は深夜の旧校舎で怪異と出会うが―「おんし、無礼である。如何なる理由でここを訪れるか」「おでんを作ったので」「…おでん?」―ビッチ系いじめっ子、犬ころ系ロボ子、そして“正義の味方の敵”のぼく。これは、孤独な吸血姫と普通じゃないぼくらが紡ぐ、青春の協奏曲である―「い、いじわるはやめるのであるからしてー!」…いや、道化曲かな。たぶん。『変態王子と笑わない猫。』のさがら総が挑む、新機軸の黄昏ロリポップ!
とある学校には吸血姫が住んでいるという噂がまことしやかに囁かれていた。
しかしそれは真実だった。
理想と現実のバランスに悩める女子高生作家、常盤桃香(ときわ ももか)
彼女は深夜の旧校舎で怪異である吸血姫(ノスフェラトゥ)、シギショアラと出会う。
彼女たちは真夜中の学校で不思議な邂逅を遂げ、不思議な会話を紡ぐ。
そうして徐々に彼女たちは交流を深めていくのだが……
ある時、死体の出現によって、彼女らの友情は一変する。
この作品は複数人の一人称視点で描かれる物語なのだが、ひとつの事件にそれぞれの登場人物からの視点で、物語は多様化し、同時多発的に様々な展開が用意されている。
ある視点からはこのように見えていた物語が、ある視点では全く別の物語への変容を成功させている。
ある視点からは見えなかった物事が、ある視点で明らかになる。
ミステリーのようで、しかしこの作品はトリックなどの小難しいガジェットの披露に重きを置いておらず、あくまでこれは不思議な物語としての体裁を成している。
そう、これは不思議な物語。
女子高生作家は吸血姫に会い、
いじめっ子女子高生は宇宙ロボットと出会い、
そしてこの二人の少女の物語の傍観者的役回りであり、「正義の味方の敵」を自称するミステリアスな少年の物語。
それぞれ関わりの無いような物語は加速度的に一つに繋がっていき、思わぬ結末へと収束していく。
読んだ感想
作品を読んで、似ているなと思った作品がある。
同じライトノベルならば、上遠野浩平『ブギーポップは笑わない』
ジャンルを超えるなら、芥川龍之介『藪の中』
それぞれに相似した物語構造、構成、雰囲気を醸し出している。
多人数視点による物語の複雑化、そして重層化。
吸血鬼や宇宙人の登場による伝記的、怪奇的要素の付与。そこから産物される怪しく、不可思議な雰囲気。
しかして基盤には学校、高校生などの青春的フォーマットを敷いたライトな世界観。
この表と裏のギャップによってこの作品は幾つもの幻惑的現実を描いているのである。
タイトルで敬遠してしまう方もいるだろう。
しかし内容はタイトルから想像する甘ったるいものとは真逆の印象を受けるだろう。
最終的にこの作品を読んだ後は、吸血鬼に血を吸われた後のように生気を失い脱力感に支配される。
一つのどうしようもない物語を読んでしまった、という読後感を味わってしまう。
これは不思議なお話であり、誰もが救われず、しかし誰もが希望を見つけるお話である。
空虚な現実は怪奇や超常によって少しだけ変化する。
ライトノベルというか、また別のジャンルを生み出した作品として是非、お勧めの作品の一つである。
最後に
この作品の寂寥感に私は未だに決着を見出していない。
それほどにこの作品の読後感は空漠とした感覚になってしまう。
そして少し経ってこの作品を思い起こしても、やはり上手く読み終わりの着地点を見つけられない。
モヤモヤもするが、しかし読まなければいけない物語だとも思った。
私たちの日常の少し隣で不思議な存在は生きているのかもしれない……
それではこの辺で。